こだわり拘る
「松明は自分の手で」を読んで
藤沢武夫さん著「松明は自分の手で」第二部「学んだこと、思うこと」よりの引用です。
三次元の世界
(昭和33年9月24日)
■これから十年先のことについて
大局的にみて現在のまま続けて行ったとして、いくらか一人前になったといえるのは、おそらく昭和三十八年頃だと思う。
その頃になれば、製品種目の安定もあるし、二十八年入社の人たちも十年経って、ホンダから受ける楽しさがどのようなものであったかという答えがでてくるだろう。
■ホンダとして今後さらに伸びるためには
新しい近代産業ではデザインというものが、かなり重要視されてくる。デザイン一つによって企業全体の人間の生きる死ぬが決まるぐらいになる。
いまうちでは社長がやってるが、もし非常に優秀なデザイナーがいたら、みんなの五十倍でも百倍でも払うことだ。これがわれわれ全体の生活を守ることになる。
世の中が進歩すればするほど、組織体になればなるほど、たとえばデパートなんかより個人商店の方が繁栄すると思う。これは組織体には、たとえば仕入部長にしてもそう目の肥えた人はいないが、個人商店の場合は一つのものに対して目が肥えている。デパートがこういう目の肥えた人を十分使うだけのカネを払うかというと払わない。組織の中に若い本田宗一郎を入れてもおそらく班長ぐらいだろう。
いま、なぜうちで貿易をやっているかというと、日本の商社ではドイツとは違い、機械のことはよくわからない。だいたい、日本の貿易は繊維業を中心として発達したからだ。ドイツに行ってみても、デパートは金盥とか安っぽいものしか売っておらず、近くの個人商店に行くと個性のある婦人の外套とかを売って繁昌している。だからアメリカなどでも、これは植民地でまだレベルが低いのでデパートが発達しているが、みんなの個性が強くなってきたらデパートなんかいまのままじゃ発達しないと思う。需要家は、急激な進歩を要求しているので、それにマッチした組織でなくてはならない。
これからは三次元の世界に入っていくので、市場調査にしても、ありきたりのものじゃ過去の集積にすぎない。こうしたらよい、こうあればという夢は、市場調査からはでてこない。こういうものを出せば皆んなが喜ぶだろうという、ものを考える人を会社に持っていれば、みんなの幸福も約束できる。
■これから入社される人たちに対して
これから入社される若い人たちにも、君たちが味わったような仕事の喜びを味あわせてやって欲しい。注意するのはよいが、小姑的にしばってくだらぬことばかりやらせていては、次の発展はないし、企業は左まえになってしまう。
■サラリーマン族、宮仕えという言葉について
宮仕えなんて、これから近代産業にはあるべきはずがないし、サラリーマンというものが特殊な存在だとは思わない。みんなが経営者だという考えをもって、自分のものを守らないと、夢は永久に遠ざかっていく。
経営者という特殊なものはない。なぜなら、経営者の考え方と、働く人の考え方と同じでなかったら、企業は決して続いていかないから。(「松明は自分の手で」藤沢武夫著(本田文庫))
「これから十年先のこと」と書かれていますが、10年後(昭和40年から50年)ではなく、50年くらい経ってからでした。
デザインのことや市場調査のことはスティーブン・ジョブズさんも同じような言葉を残しています。MacやiPhoneなどは、これらの考えを具現化したものでしょうね。ホンダで見れば、スーパーカブやN360などがそうかも知れません。
ホンダは本田宗一郎さんと藤沢武夫さんが礎を築いて現在があります。Appleはスティーブン・ジョブズが生み出したMacやiPhoneなどが大黒柱です。
本田宗一郎さんや藤沢武夫さんやスティーブン・ジョブズさんのような並外れた人が往った後でも企業は存続します。残した製品に頼るだけでなく、果敢に進んでもらいたいと思います。